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マイナビ将棋BOOKS 対矢倉 左美濃作戦 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 〜★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 中田宏樹 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2012年1月 | ISBN:978-4-8399-4139-0 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【コラム】(1)左美濃を指し始めたきっかけ
(2)対左美濃の終盤戦 |
【レビュー】 |
矢倉での、後手の左美濃作戦を解説した本。 矢倉戦では、たいていの場合は後手が守勢になる。互いに陣形が似ているため、どうしても先手の方が先に攻めることになりやすい。特に▲4六銀-3七桂戦法に対しては、現在の後手はほとんど専守防衛だ。 後手から攻める戦法もいくつもあるが、米長流などの急戦は攻撃力は高くても玉が薄く、なかなか勝ちづらい。右四間飛車なら攻撃力が高く、玉を固めることも可能だが、単調な戦いになりやすいためか、プロでは主流になっていない。 一方的に攻められるのは、たとえ互角でもつまらない。玉は堅くて、本格的に攻めたい。矢倉らしい、コクのある戦いをしたい。そんな戦法はないか──。そんな方にオススメなのが、本書の「左美濃作戦」である。 第1章は、左美濃作戦の概要について。美濃囲い(高美濃)は矢倉囲いよりも2手早く完成するので、その分を攻めに回すことができる。普通は先手番の矢倉は▲6八銀と上がるため、先手番ではできない「後手番専用」の作戦だ。 〔左美濃作戦のメリット〕 ・飛を切りやすい(△3一銀捨てから両取りをかけられることがない)→猛攻しやすい ・角を使いやすい ・▲4六銀-3七桂に強い(3三に目標となる銀がいないため) ・端を破られても逆サイドに逃げやすいことがある(p70参考図など) ・△5二飛と回ったとき、飛にヒモがついている(p100など) 〔デメリット〕 ・端(1筋)が弱い(3三銀の応援が利かない) ・玉のコビンが弱い 第2章は、左美濃の良さを生かした戦い方について。この戦型では、先手も手数の差を縮めるために早囲いで来ることが多い。このときに、後手が居玉のまま7筋の歩を交換する佐藤康光流もあるが、本書では割愛。本書の「中田宏樹流」では、7筋の歩交換は保留し、△6四角と出て、先手が▲3七銀か▲3七桂かを問う。 ▲3七銀の場合は、次の△8五歩が大事な一手(p17〜p18)。先手の攻めの形は、▲4六銀-3七桂(p19〜)か、▲飛先不突き棒銀(p63〜)かだ。いずれの場合も、後手は終盤で強い攻めを敢行できる。美濃が残っていれば、駒損しても攻め続けられれば反撃は来ない。対抗形で穴熊が得意な人は、似た感覚で攻めをつなげられそうだ。 ▲3七桂の場合は少し注意が必要。1筋を詰められたら、美濃を崩してでも△3三銀と端を強化(銀の援軍を送れるように)しておく。ポイントとして、「△3三銀と上がるときは、立ち遅れて守勢にならないことが絶対条件」(p81)となる。 第3章は、先手の▲2五歩早突き作戦。現代矢倉では、先手は飛車先不突きor保留で進めることが多いが、後手の左美濃からの強襲が強力なので、早めに▲2五歩を決めて左美濃を崩させ、後手の攻勢を防ごうというのが狙いだ。デメリットは、先手の作戦の幅が狭まること(もともと飛先不突き矢倉は、飛先を伸ばす手数を他に回すのが一つの狙い)。▲4六銀-3七桂やスズメ刺しは使えなくなる。 これに対して、後手が2筋歩交換を許せば作戦負けを招く(p122〜)。また、左美濃を崩さないようにと△3三金と受けるのも後手思わしくない(p126〜)。結局、左美濃を崩して△3三銀と受けるしかないが、その場合も△7三銀型では後手にいい変化がない(p130〜)。 そこで、後手は飛先を△3三銀で受け、△7三角型にして先手の攻めを牽制する。攻撃力は落ち、「左美濃の堅陣から猛攻」という本来の戦い方はできなくなるが、先手の作戦を限定させて、専守防衛にならないだけでも良しとする考え方だ。 後手の対抗策は次の2つ。 (1)△7三角-△5三銀-△6二飛型から△6五歩と仕掛け、角交換後に△4七角と打つ。(p149〜) (2)△7三角-△6三銀ー△8二飛型から△6五歩と仕掛ける。(p168〜) この2つなら後手も十分戦えるという結論だ。ただし、「(角交換後の)角の使い方や打ち場所のちょっとした違いで変化手順が大きく違ってくる」(p177)ので、何度も試して勘をつかむ必要がありそうだ。 この戦型では、互いに棒銀の形になることが多い。右図のような形から▲1五銀と出て、放置すれば銀交換して成功なので△1四歩と追い返そうとする。このとき、攻め方が2種類ある。 (1)▲2六銀〜▲1五歩と攻める (2)▲1四同銀と取る 中級者向けの手筋の本では、「(2)の方が良い」と書かれていることもあるが、本書では(1)の方が出現率が高い。(2)の場合、すぐに銀を取ってくれれば1手早くなるが、そのままにしておけば相手は好きなときに銀を取れるし、端攻めについては手が遅れるというデメリットがある。一方、玉頭にプレッシャーをかける形なので、相手が△4五歩としたときに▲同桂と取りやすく、1歩得というメリットもある。 それぞれの特徴をよく考えて使い分けるように必要があるので、それを頭に入れながら本書を読み進めるとよいと思う。 本書の解説は、「マイナビ将棋BOOKS」としては標準的なレベル。プロレベルのテーマについては難しい部分もあるが、ときどき指し手の意味や複雑な形勢判断を明快に言語化していて、理解しやすかった。例として、p136を一部引用しておく。 「…(この手の)筋が悪い理由は、働きの悪い6二銀と持ち駒の金を交換する手であるからで、…(中略)…しかし今回の場合 先手玉が堅い。現実に馬を作る。そして何より…(中略)…が大きなメリットです。」 後手番で、堅い囲いで攻められるのは大きな魅力。矢倉党は必読の一冊だ。(2012Feb21) ※誤字・誤植(初版第1刷で確認): p47 ×「△8六歩(第39図)」 ○「△8六歩(第29図)」 p156 ×「第31図以下の指し手B」 ○「第30図以下の指し手B」 p175 棋譜3行目 ×「▲5七銀」 ○「▲7七銀」 [結果図]が▲7七銀になっており、おそらく▲7七銀が正しいと思われる。 |